丹波の村に入ると、数多く残る入母屋の民家が昔話の背景になるような景観をつくっている。しかし近年、屋根はほとんどカラートタンで覆われてしまった。それらの中で、ひときわ目立つこげ茶色の茅葺屋根の民家が見えてきた。国指定重要文化財の渡邊家である。前庭で私たちを迎えて下さったのは当主雄一さん(71歳)とハルノさん(69歳)夫妻である。2人とも笑顔が美しい。
低く葺きおろした屋根と目立つ壁、一目で古い家とわかる。この家は350年ほど前に建てられたと推定されている。屋根の最上部に乗る7基の棟おさえはこの家の格式の高さを伝えている。
入口の敷居を跨(また)ぐと、暗い土間が広がる。その一角につくられたマヤからは、かつて黒毛の牛が潤んだ大きな目で客を迎えたことだろう。
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